国土交通省インスペクション・ガイドライン
既存住宅現況検査の適正な実施について
既存住宅現況検査業務の適正な実施を図るため、検査事業者が業務実施に際して共通して取り組むことが望ましいと考えられる事項等が示されています。まず前半は、既存住宅現況検査の内容について、そして後半には、その手順について説明が続きます。
既存住宅現況検査の内容について
検査の内容や検査項目、検査方法について示されています。
現況検査の内容
〇 現況検査の内容は、売買の対象となる住宅について、基礎、外壁等の住宅の部位 毎に生じているひび割れ、欠損といった劣化事象及び不具合事象(以下「劣化事 象等」という。)の状況を、目視を中心とした非破壊調査により把握し、その調査・ 検査結果を依頼主に対し報告する。
現況検査の内容は、売買の対象となっている住宅について、劣化事象等の有無と状況を調べることです。現況は目視を中心とする非破壊調査によって把握され、報告書という形で依頼者に提出し説明する責任があります。
ここで言う住宅は、戸建住宅か共同住宅等かは問いません。住宅であれば対象となります。
〇 現況検査には次の内容を含むことを要しない。
現況検査で調査・報告すべきことは限られています。それ以外の目的に対する判定はできません。
① 劣化事象等が建物の構造的な欠陥によるものか否か、欠陥とした場合の要因が何かといった瑕疵の有無を判定すること
現況検査の内容は、あくまでも、対象となる住宅の現在の状況を把握することに主眼が置かれています。瑕疵の有無やその原因を判定することは、現況検査の内容として含む必要はありませんし、そのような目的のインスペクションは、事業者独自の業務として個別に委託契約を結ぶべき案件でしょう。
② 耐震性や省エネ性等の住宅にかかる個別の性能項目について当該住宅が保有する性能の程度を判定すること
耐震性や省エネ性など個別の住宅が保有する性能の程度を判定したりすることも、現況検査の内容として含む必要はないとされていますので、必要に応じて個別対応することになります。
③ 現行建築基準関係規定への違反の有無を判定すること
法令や基準への違反の有無の確認も、現況検査の内容として含む必要はないとされていますので、必要に応じて個別対応することになります。
④ 設計図書との照合を行うこと
設計図書との照合なども現況検査の内容として含む必要はありません。依頼主の意向があれば、必要に応じて個別対応することになります。
検査の対象範囲
○ 現況検査における検査対象の範囲は、以下を基本とする。
現況検査で調査すべき範囲は限られています。それ以外の範囲に対する検査については、依頼主の意向により付随的に受託する業務となります。
① 現場で足場等を組むことなく、歩行その他の通常の手段により移動できる範囲
足場等を組んで実施する屋根等の検査は、依頼主の意向等に応じて検査対象とすることになります。つまり、足場代を負担してでも調査や検査が必要だという依頼主の意向があれば検査対象とすることになりますが、通常は、足場等を組むことなく検査できる範囲が対象となります。
② 戸建住宅における小屋裏や床下については、小屋裏点検口や床下点検口から目視可能な範囲
蟻害や腐朽・腐食等の有無を可能な限り確認する必要がありますが、小屋裏点検口や床下点検口から進入して実施する検査については、依頼主の意向等に応じて検査対象とすることになります。基本的には進入調査は行わず、小屋裏点検口や床下点検口から目視可能な範囲を確認するにとどめます。
③ 共同住宅においては、専有部分及び専用使用しているバルコニーから目視可能な範囲
共同住宅の共用部分(1階の外回り、当該住戸に至る共用廊下や屋上等の部分)については、依頼主の意向等に応じて検査対象とすることは考えられますが、共同住宅における検査対象範囲は、専有部分である住戸内及び専用使用しているバルコニーのみです。
○ 外構回りや、家具等により隠れている部分の取り扱いについて
門、塀、擁壁等の住宅の敷地内に存する工作物や車庫等についても、依頼主の意向等に応じて検査対象とすることはできますが、基本的には対象外となります。
現況検査実施時において、容易に移動できない家具等により隠れている部分については、目視等により確認できないことを業務受託時に依頼主に説明するとともに、報告時には該当する箇所とその理由を依頼主に報告することが求められています。
検査の項目
○ 検査項目は、検査対象部位と確認する劣化事象等で構成され、劣化事象等については部位・仕上げ等の状況に応じた劣化事象等の有無を確認することが基本である。
検査対象となる項目について、検査対象部位ごとに確認すべき劣化事象等が定められています。
○ 確認する劣化事象等としては、以下を基本とする。【詳細については下表参照】
① 構造耐力上の安全性に問題のある可能性が高いもの
(例)蟻害、腐朽・腐食や傾斜、躯体のひび割れ・欠損等
② 雨漏り・水漏れが発生している、又は発生する可能性が高いもの
(例)雨漏りや漏水等
③ 設備配管に日常生活上支障のある劣化等が生じているもの
(例)給排水管の漏れや詰まり等
検査対象とする劣化事象等については、既存住宅に係る住宅性能評価の現況検査における総合判定で対象としている特定劣化事象等、及び、瑕疵保険の現場検査に係る検査基準における劣化事象等(設備配管に係る劣化事象等を含む)を基本として設定されています。
簡単に言うと、建物のこれからを大きく左右する「構造に関するもの」と「雨水浸入や漏水に関するもの」が検査対象になっているという事です。この二点における劣化状態が現存するなら、これからの生活を安心して送ることはできませんので、何らかの対応が必要になります。また、設備配管における劣化事象(給排水管の漏れや詰まり等)がある場合は、いずれ日常生活に支障をきたす可能性が高いので、早めの対処を促すためにも検査項目に含まれているのです。
逆に言うと、日ごろのメンテナンスで改善される表面的なことや軽微なことについては、建物自体や日常生活に影響を及ぼす可能性が低いことから、検査対象外になっています。ただ、住宅の汚損や樋の詰まり等清掃により解消可能なもの、あるいは、キッチンコンロ、換気扇やパッケージエアコン等設備機器の作動不良等については、依頼主の意向等に応じて検査対象とすることもできます 。
戸建住宅の検査項目
共同住宅の検査項目
検査の方法
○ 現況検査の検査方法は、目視、計測を中心とした非破壊による検査を基本とする。
インスペクションを普及させるためには、できるだけ簡易な方法による検査でなければなりません。そのような考え方から、現況検査の検査方法は、目視、計測を中心とした非破壊による検査が基本とされています。
○ 目視を中心としつつ、一般的に普及している計測機器を使用した計測や触診・ 打診等による確認、作動確認等の非破壊による検査を実施する。
目視を中心としつつも、一般的に普及している計測機器を使用した計測や、触診・打診等による確認など、創意工夫を凝らした非破壊による検査を実施することが求められています。
ただ、電磁波レーダー等を用いた鉄筋探査やファイバースコープカメラ等の非破壊検査機器を用いた検査については、一定の追加費用負担が生じることから、追加的に実施すべき検査として考えられています。
なお、今後、非破壊検査機器の技術開発や普及による推定精度の向上やコストダウン等の状況変化等によっては、上記の検査方法に追加されることも考えられます。
破壊調査については、破壊することについて住宅所有者の同意を得る必要があることから、中古住宅売買時の利用を前提とした現況検査においては、原則として含めないものとされています。