国土交通省インスペクション・ガイドライン
ガイドライン策定の目的と考え方
ここでは、ガイドラインを策定するに至った背景と、その目的について詳しく説明が為されています。
ガイドライン策定の背景・目的
中古住宅は、新築時の品質や性能の違いに加えて、その後の維持管理や経年劣化の状況により物件ごとの品質等に差があることから、消費者は、その品質や性能に不安を感じている。このような中、中古住宅の売買時点の物件の状態を把握できるインスペクションサービスへのニーズが高まっている。
中古住宅は、新築時にくらべ、経年劣化により住宅としての品質や性能にどの様な影響が出て来ているのか?また、購入後どの程度のメンテナンスが必要になるのかなど、わかりにくい点があります。中古住宅の流通量が増える中、中古住宅購入者のインスペクションサービスへの期待とニーズが高まっています。
一方で、現在民間事業者により実施されている「インスペクション」といわれるサービスは、中古住宅の売買時検査のみならず、新築入居時の検査やリフォーム実施時に行うものなど様々である。
インスペクションと呼ばれるサービスは、新築入居時やリフォーム時など様々なシーンで使われる言葉です。このガイドラインは、あくまでも中古物件の売買時における、既存住宅に実施される『インスペクション』について書かれたものです。
また、目視等を中心として住宅の現況を把握するために行われる現況検査は、最も基礎的なインスペクションであるが、現場で検査等を行う者の技術力や検査基準等は事業者ごとに様々な状況にある。
今回ガイドラインが定められたインスペクションは、最も基礎的な調査ですが、現状に於いて、それを行う事業者の技術力や検査基準はバラバラで、インスペクションの程度や精度にムラがある状況です。
このため、本ガイドラインにおいては、中古住宅売買時の利用を前提とした目視等を中心とする基礎的なインスペクションである既存住宅の現況検査について、検査方法やサービス提供に際しての留意事項等について指針を示すこととする。これにより、事業者による適正な業務実施を通じて、既存住宅インスペクションに対する消費者等の信頼の確保と円滑な普及を図ることを目的とする。
これらの背景を踏まえて、中古住宅の利用を前提とした、既存住宅のインスペクションにおいて、費用の面も含め、検査提供における留意事項についての一定の目安を定め、インスペクションに対する消費者の安心と信頼の確保、そしてその普及を図ることを目的に策定されました。
既存住宅インスペクションの分類について
既存住宅のインスペクションと呼ばれるものには、3つの目的が存在していますが、このガイドラインは、『(1)目視等を中心とした非破壊による現地調査』について書かれています。
インスペクションの3つの主な目的:
1)目視等を中心とした非破壊による現地調査 このガイドラインの対象
主に、構造上の安全性や、日常生活における支障の有無など中古住宅における劣化事象を調査する。(一次的なインスペクション)
2)破壊検査を含めた詳細な調査を実施する
主に、実際に生活上支障が生じてる場合に、不具合箇所を特定し、住宅の修繕を行うための調査(二次的なインスペクション)
3)リフォームの前後に実施する現地調査や検査で劣化状況や性能の把握を行うためのもの。(性能向上インスペクション)
ガイドライン策定に当たっての基本的な考え方・趣旨
本ガイドラインは、中古住宅売買時に行われるインスペクションに関して、共通認識の形成及びその普及を図ろうとするものであり、その策定に当たっては以下を基本としている。
○ 業務内容は、これを実施するためのコストが、利用者にとって一般的に負担可能な程度となること、また、短期間で手続きが進められる中古住宅売買時の流れの中で利用可能なものであること。
費用については、事業者ごとに異なるのが普通ですが、その費用も、住宅を購入しようとする、または、販売しようとするものが、調査費として妥当と考えられる内容であることが望ましいとされています。また、実施期間についても、準備が不要ですぐに調査が始められるものであることを基本としています。
○ 検査結果が、どの検査事業者が行ったかによらず同様の結果が得られるよう、現時点で得られている知見や一般的に用いられている検査技術等に基づいたものとすること。
検査の基準を設け、その基準に基づいて判断を行うことで、検査事業者における結果に差異が発生しない仕組みづくりの構築を目指しています。
○ 業務内容及び検査事項は、検査事業者が共通して実施することが望ましいと考えられる内容であって、検査事業者のより高度なサービスの提供等市場における競争を制限しようとするものではないこと。
ここで策定している共通の検査内容については、あくまでも基本的なものであって、非破壊で行える他の技術を使ってはならないというものではありません。また必要に応じて診断機材などを導入する場合もありますし、それらの詳細な情報を取ってはならないというようなものでもありません。
○ 今後、新たに得られた知見、非破壊検査技術等の開発やコストの低減等状況の変化を踏まえて、適宜見直しが加えられるものであること。
このガイドラインの策定により、目視に限らず(例えばレーザー測定器などを使用する、サーモグラフィー検査による外壁のハクリ調査、放射線検査、超音波検査など)新しい技術などが開発されたり、コストが抑えれれるようになったりしたときには、検査方法の見直しなどが行えることを前提としています。
本ガイドラインは、最近の取組事例等も考慮の上、既存住宅インスペクションの適正な業務実施、トラブルの未然防止の観点から、あくまでも現時点において妥当と考えられる一般的な基準等をガイドラインとしてとりまとめている。
このガイドラインは、あくまでも現時点で「この検査をしていなかったのか!」というようなことがない程度の必要最低限の基準をまとめたものに過ぎません。まずは広く浅く普及させることが目的である以上、運用が困難なガイドラインを制定しても意味がないのです。
本ガイドラインの使用を強制するものではなく、個別業務の内容については、契約内容として決定されるべきものである。
ガイドラインに沿ってインスペクションが行われなかった場合でも、特に罰則はなく、実際には、行われていない検査があるかもしれませんが、それは、当事者が検査業務の内容を元に実施されるべき検査であるということを理解して欲しいという趣旨が書かれています。(最低でも、このガイドラインに沿った検査を行われることが望ましいという範囲に留めますと言うことです。)
つまり、検査内容については、現存する建物の構造や、規模、築年数などによって、正確な検査が出来るとは限らないわけですし、検査技術や、検査する場所によっても、異なる結果が出てくる可能性があることはしかたのないことです。が、ガイドラインが存在することで、中古住宅の購入希望者も、インスペクションに対する考え方や意義を知るきっかけにはなります。
ガイドラインとは違った、事業者独自の個別業務の契約を交わす場合においても、「ガイドラインのこの検査は必要ですから是非やってくださいね!」と言えるように、主体的な知識を中古住宅購入者も積極的に得ることが必要なのです。