インスペクションと同時に行う耐震診断

耐震診断を同時に行う場合、インスペクションとは違った観点で建物をチェックする必要があります。インスペクションは、今現在の建物の状況を調べることが目的です。耐震診断は、耐震性に直接関係する壁の仕様や配置バランス、基礎仕様や金物の設置状況、そして、構造躯体の耐力低下にかかわる劣化状態を確認することにより、その建物が持つ耐震性を数値化するのが目的です。さらに耐震診断の結果、現行基準に適合していない場合には、耐震補強の必要性について真剣に考えることが大切です。

立地条件や基礎仕様を確認する

地盤崩壊など地盤災害の可能性の有無を判断するために、建物周辺の地形・地盤の目視調査を行います。近隣の土地は平坦なのか傾斜地なのか、塀の傾きなどが起きていないか、診断対象家屋や周辺家屋の状況をチェックします。耐震診断は上部構造の耐震性について評価することが目的ですが、極端に地盤の状況が悪い場合などは、上部構造の評価時に必要耐力を割り増して、厳しめに判断することもあります。

基礎の調査では、基礎の断面形状や寸法、鉄筋の有無などを確認し、診断に反映させます。基礎に要求される耐震性能は、建物の一体性を高めること、そして、地震時に上部構造の耐震要素が十分な機能を発揮できるようにすることです。コンクリートのひび割れや断面欠損は基礎の構造性能を低下させ、その結果、耐震性にも影響を及ぼします。また、無筋コンクリート造の基礎は、アンカーボルトや引き寄せ金物が十分な性能を発揮できない場合があります。 

耐震診断(鉄筋センサー)
鉄筋の有無を調査する
耐震診断(シュミットハンマー)
基礎強度を確認する
耐震診断(基礎の亀裂)
劣化状況を確認する

屋根仕上げ材を確認する

建物の耐震性は、必要耐力に対する保有耐力の割合で数値化されます。必要耐力は、その建物が必要とする耐力のことであり、保有耐力は、その建物が実際に保有している耐力です。必要耐力は理想の姿、保有耐力は実際の姿と表現すると分かりやすいかもしれません。数値が1.0を超えれば、必要十分ということで合格(適合)、逆に1.0を下回る場合は、保有耐力が必要耐力に達していないということで不合格(不適合)ということになります。

必要耐力は、その建物の重さによって変わります。軽い建物の方が重い建物よりも必要耐力は小さくなります。では、建物の重さはどこで判断するかというと、屋根の仕様です。頭の重さで必要耐力が計算されるイメージですね。石綿スレート板や鉄板葺きの屋根の場合は軽い建物、瓦葺き屋根の場合は重い建物と判断します。瓦葺きの屋根の中でも土葺きの屋根は、必要耐力が更に大きくなる「非常に重い建物」と判断されます。

耐震診断(コロニアル)
軽い屋根=軽い建物
耐震診断(瓦)
重い屋根=重い建物
耐震診断(土葺き瓦)
土葺き=非常に重い屋根

屋内外の壁仕様を確認する

耐震性の良し悪しは、その建物における壁の配置と仕様によって決まります。「土台がしっかりしているから大丈夫」とか「柱が太いから大丈夫」という感覚は大きな間違いです。地震に対抗する力は壁が命なのです。外壁部分や間仕切の壁配置を確認し、壁一つ一つが何でできているのかを調べます。新築時の図面表記も参考にしながら、構造体に直接施工された下地材を見極めていきます。各種下地材には耐力を表す固有の数字(壁基準耐力)が割り当てられており、この数字の合計で壁の強さを表します。数字が大きいほど強い壁ということになるのですが、建物の耐震性を左右するポイントはこれだけではありません。

もう一点重要なこと、それは、壁の配置バランスです。どんなに強い壁だったとしても、バランス良く配置されていなければ耐震性能は下がってしまいます。壁の配置バランスは、重心と剛心のズレで判断するようになっており、このズレが小さい場合は、壁の強さがそのまま活きてくるのですが、ズレが大きい場合は、壁の強さが低減されるようになっています。壁の配置バランスが悪いと、地震時の揺れ方が不安定になり更には揺れの増幅を招く可能性が強くなるからです。

壁の強さと配置バランスが、建物全体の耐震性に影響を及ぼすのです。 

耐震診断(スイッチプレート)
壁下地材の厚みを計測する(スイッチbox)
耐震診断(壁厚さ)
壁下地材の厚みを計測する(小屋裏)
耐震診断(偏心率)
壁の配置バランスを診断

筋交い位置を確認する

新築当時の図面に筋交い表記がある場合、その通りに設置されているかを一つ一つ確認します。床下もしくは天井裏で筋交いの端部を確認し、断面寸法も計測します。また、柱・梁への留め付け方法についても、釘打ちか金物設置かを確認します。筋交いは壁の一部として、壁強さを表す数字に加算されます。断面寸法が45×90の筋交いは「二つ割」、30×90の筋交いは「三つ割」と呼ばれます。断面寸法が大きいほど壁強さを表す数字(壁基準耐力)も大きくなります。 

耐震診断(筋交い寸法)
筋交いの位置と寸法を確認する
耐震診断(筋交いプレート)
筋交いの設置方法(金物)を確認する
耐震診断(壁基準耐力)
壁基準耐力の一覧表(抜粋)

構造材緊結の為に設置された金物を確認する

耐震性の要は何といっても壁ですが、その壁が100%の耐力を発揮できるかどうかは、壁の両端にある柱の働きにかかってきます。柱がその上下端にある土台や梁に緊結されてこそ、壁の耐力が発揮されるのです。以上の理由から、壁の耐力は柱接合部による低減を受けることになっています。基礎仕様と柱脚接合部の種類によって、低減される割合も変わってきます。 

耐震診断(T字金物)
柱の接合金物を確認(T字金物)
耐震診断(山形プレート)
柱の接合金物を確認(山形プレート)
耐震診断(かすがい)
釘、かすがい程度の接合状況

建物全体の劣化度を確認する

経年劣化等による構造躯体の老朽度を調査します。瓦のズレや欠け、外壁仕上げ材の劣化、露出した躯体の腐朽など、建物に存在する部位ごとに劣化度合をチェックしていきます。ここで肝心なことは、古くなったとか汚くなったとか表面的な劣化まで過度に捉えないということです。劣化や老朽化の結果、構造躯体の耐力が低下する恐れのある状況だけを拾い出して壁耐力の低減処理をします。主には、雨漏りや白蟻の被害など、明らかに悪影響が及ぶ心配がある事象を中心にチェック作業を行います。 

耐震診断(蟻害)
蟻害による土台の劣化状況
耐震診断(基礎亀裂)
基礎立上りの断裂状況
耐震診断(軒天腐朽)
雨水浸入による軒天の腐朽

耐震補強に関するQ&A

耐震補強が必要なのは、旧耐震物件だけですよね?

昭和56年6月、建築基準法における耐震基準が改正されました。それより前に建てられた物件は旧耐震、改正以降に建てられた物件は新耐震と呼ばれています。確かに「旧」に比べれば「新」は新しいわけですが、最新基準は平成12年改正の「現行基準」と呼ばれるものです。必要壁量は新耐震のそれと同じなのですが、配置バランス及び接合金物に関する基準を加えることにより、保有壁が100%の力を発揮できる状態を維持することが期待されます。

新耐震物件でも、耐震基準不適合物件は少なからず存在します。補強が必要な物件は、旧耐震に限ったことではないのです。

 

旧耐震物件の補強工事にしか補助金は出ないんですよね?

市町村が行っている耐震補強工事の助成制度をみると、旧耐震物件が対象であることがほとんどです。旧耐震物件は倒壊の恐れが強い状態にあるわけなので、地震の際に前面道路をふさぐ可能性があります。地震時の混乱を考えれば、個人の資産に公的資金を投入してでも、各戸の耐震性確保に努めなければならないわけです。

では新耐震物件に対してはどうでしょう。補助金制度も減税制度も対象は旧耐震に限られていることが多いのですが、中古住宅として流通させる場合には、リフォームの補助金制度や取得に関する減税制度があります。所有者が変わるタイミングで耐震補強工事やその他のリフォームを実施し、長期にわたって利用価値の高い状態にすることを国は推奨しているのです。

 

耐震診断をしたら絶対補強しないとダメなんですか?

そんなことはありません。が、診断した意味を考えればその先の補強工事を真剣に検討すべきでしょう。補強が必要だという結果が出たのにその状態を放置するということは、診断したことさえも無意味になってしまうということです。

補強の仕方は色々あります。必ずしも1.0以上の適合状態を目標にする必要はありません。ゼロか100か、ではなく、現状より少しでも良くなるように、総合的に判断することが大切です。目的や予算にあった補強工事を検討することも可能なのです。 

確かに、補強工事は壁の中や床下で行う工事ですから、直接的に生活の質や環境が向上するわけではありません。補強工事に費やすお金があったら内装や設備機器を充実させたくなる気持ちもわかります。が、地震の時には凶器に変わるかもしれない家に安心して住めますか?地震はいつ何時やってくるか誰にもわかりません。備えが不足している状態だと知っていながらそれを放置したことを、正しい選択だったと言える日は来るでしょうか?

耐震診断は目的ではなく手段です。その先にある安全な住まいを実現することが本当の目的です。耐震診断が無駄では無かったと思っていただけるように、私たちが「耐震診断特別割引」で耐震補強工事の後押しをします。詳しくは診断メニューと料金表をご確認ください。

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